オトコ女は何故可愛い?! 『吉祥寺の朝日奈くん』収録作から見るオタ話
彼女の少年のような髪型は、あきらかに男ではない、という雰囲気を放っていた。
【※ネタバレ注意※】
短編集『吉祥寺の朝日奈くん』(中田永一さん、祥伝社文庫)拝読しました。
『三角形は壊さないでおく』という話に出てくる、ショートヘアーの女の子が可愛らしい。
活発な少年のようなベリーショートヘアーの子。
教会のシスターを想像するような淑やかで丁寧で柔和な性格の子。
それなのにガンダムの足のような無骨なスニーカーを履きこなす子。
何故こうも、と思うほど綺麗に彼女はきらめいて見えた。
その理由は、後半の描写から読み解くことができた。
『 活発な少年みたいな雰囲気がある。同時に、逆の雰囲気もある。
あきらかに男ではない、という雰囲気だ。
髪が短いせいなのか、顔の輪郭、首から鎖骨、そして肩までのラインがはっきりと見えるのだ。男子との体格のちがいが明確にわかる。
女子の体が、ほっそりして、もろくて、繊細であることを、彼女の輪郭は、見ている者に感じさせる』
例えば白いボールを、白い紙の上に置く。ボールは紙に溶けこんで、いくつ置こうとも目立たなくなる。しかし今度は黒い紙の上に、白いボールを、たったひとつだけ置いてみる。すると驚くほどにボールは存在の強い主張を始めるのだ。
スイカに塩をかける。塩のしょっぱさによって不思議なことにスイカの甘みを強調される。
それらと同じだ。
異なる要素は、そのものの持つ特徴をむしろ大きく引き立てる。
『犬夜叉』の神楽や『DRAGON BALL』のランチアさんのような勝気で男らしい女キャラ。
ドラゴンボールの17号や『家庭教師ヒットマン REBORN!』のスクアーロのような、女性のようにさらさらとした長い髪を持つ男キャラ。
あるいは『ドラゴンクエスト11』のシルビアさんのように、どちらの性別も持つキャラクター。
そういったもう一方の性別の香りをも纏う方々に魅了されることが、僕は人より多いように思う。それが何故なのか、明確な答えを探し当てることが僕は今までできなかった。
しかしこの小説の描写から気付かされた。
真逆の色の上に落とすことで、そのものの持つ魅力は尖るのだ。
「明らかに男ではない雰囲気を放つこと」に言及した文節は、こんな一部で締められていた。
『二つの世界の境界線上にいる者は美しいと思う』
まさにその通りなのである。
美しい。
境界の中にいる者は、美しい。
余談
ヒロインの透明感をありありと描きあげた一部があまりに美しいので、ついでに紹介させてほしい。
『日差しの中で近づいてきた彼女の耳が薄くて肌が白いから、太陽の光を透かして耳が赤く見えた』
どうしたらこんなにも麗しく人間を描くことができるのだ……。
さらに余談
作者の中田永一さん、実は乙一さんと同一人物なんですね?!!? どうりで表題作の『吉祥寺の朝比奈くん』を拝読中、『しあわせは子猫のかたち』という乙一さんの短編集を思い出したわけだ。多彩だなぁ……。
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*『吉祥寺の朝比奈くん』(短編集の表題作)の映画→【吉祥寺の朝日奈くん オフィシャルサイト】
*『しあわせは子猫のかたち』の収録された乙一さんの短編集『失はれる物語』詳細(出版社公式サイト)→【失はれる物語 乙 一:文庫 | KADOKAWA】