コボレ恥之介と 石の下でさざめく記事たち

元・マンガ家志望。小説・映画・漫画の感想や表現技法の勉強、自作品の批評など。僕がアウトプットするためのブログです。

【読書感想文集】奇妙! 感想エクスプレス!

世にも奇妙な物語というオムニバスドラマシリーズ。

あれって正式な略称は何なのだろうか?

 

僕はずっと『よにきみょ』と呼んでいたのだが、誰にも通じない。ではそれ以外の略称があるのかと言えば、何故か聞いたことがない。それなりに長いタイトルなのに、みんな律儀に正式名称を言うのである。僕にとってはこれがこのドラマ内で一番の「奇妙」なのである。

 

何故そんな話をしたかといえば、今回話させていただく短編集の中に、『世にも奇妙〜』の原作となった話があるからだ。


短編集というのはたまにこういうことがある。僕が短編集好きな理由のひとつである。

まあそんな訳で、そろそろ本編にいきましょう。

 

 

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【※ネタバレ注意※】

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◇連作短編集『新諸国奇談』阿刀田高さん、講談社文庫)。
収録作『錬金の夢』の、錬金術を成功させる鍵となる材料は、女の清らかな涙」というのが面白かった。ラストの「女の涙が金に変わる瞬間」が皮肉めいていて面白い! 滑稽だけど、深い話。

 

 

 

 

◇短編集東京奇譚集村上春樹さん、新潮文庫)。
収録エッセイ『偶然の旅人』の、ピアニストを諦めて、ゲイだとカミングアウトした男性のセリフが印象的。


『まわりの人は失望したかもしれない。でも僕はやっと本来の自分に戻ることができたんだ。自然な形の自分に』

 

本来の自分と向きあう話、僕は好きだ。関心が強い。僕もそれをずっと探していたし、最近やっと本当の自分とやらを見つけられるようになってきた。
本来の自分に戻る。それは簡単なようで難しい。本当だと思っていたものが本当でないかもしれないし、せっかく見つけた本当が時間とともに本当でなくなるかもしれないし。

 

偶然というのはありふれている。それを見過ごさないことが大切なのだ、という主張に僕は深く共感した奇跡ほどありふれたものはないし、目の前に落ちたティッシュのゴミすら奇跡の塊だと思う。大切なのは、目の前の奇跡に意味を与えられるかである。
この男性の話、もっと伺いたい。

 

 

 

 

『女が蝶に変わるとき』大石圭さん、幻冬舎アウトロー文庫)。

最後、シぬ直前のシーンにて。主人公の女性である「あなた」の、そっとあわせられた長い上下の睫毛が美しい。夢を見ているのか、震える両方の睫毛。まるで蝶のようだと思った。ただその目は標本にされるとき、開かれる訳ではないだろう。蝶の羽根は開かれたほうが美しい。シんだ人の目は閉ざされたほうが美しい。

 

エピローグ。開かれたカーテンは、今まさに羽ばたこうとする蝶の羽根のようだった。やはり蝶の羽根は開かれたほうが美しいのだ。開いて、閉じて、また開く。それがとても美しい。蝶の羽根は飛ぶためにある。

 

平凡で、愚かで、ありきたりな者になり下がることはとても勇気のいることだと、とある本に書いてあったのを思い出した。
「美しい帰結」を剥奪された彼らは今後どうなるのだろう? 美しい羽根を痛めながら飛んだ空に何があるのか。

巻末の解説は、読むとラストのメッセージ性が深みを帯びる。

 

あとがきの言葉もとてもグッときた。

『生きるというのは泥まみれになることだ。たくさんの恥をかき、何度も自己嫌悪に陥り、人に嫌われたり、人を嫌ったりしながら、あまりかっこよくない時間を送り続けることだ』

 

虫が苦手なのでキツい描写も多かったが、大好きな作家さまなので長い時間をかけならがらも読んだ。読んでよかったと思えるラストだった。
改稿前の『いつかあなたは森に眠る』も拝読したい。

 

 

 

呪怨 終わりの始まり』大石圭さん、角川ホラー文庫) 。
幽霊になった後の葵さんの容貌がショッキング。ひらひらする舌は絵として思い浮かべると滑稽で、だからこそとても生々しかった。


エピローグとあとがきに作者さまから伽倻子さんへの愛情を感じ、嬉しくなった。

 

 

 

 

『亜美ちゃんは美人』
『かわいそうだね?』(綿矢りささん、文藝春秋に収録されている短編。『亜美ちゃんは美人』を読みたくて読みたくてこの本は購入した。

 

僕はフィクション世界に存在している美人キャラクターが好きなのだが(申し訳ないことに芸能人にはあまり関心がないので、乃木坂は誰も分からない)美人を取り巻く環境ついて掘り下げて考える、よい機会をいただいたと思った。


美人さを表す言葉はどれも美しいが言及すると長いので割愛。
「亜美さんは自分の美を利用しなかった、そんなところに僕は憧れていた」という、彼女のファンである男のセリフはハッとなった。そのセリフで彼女の美しさは増した。

 

亜美ちゃんがダメ男を好きになる理由には「なるほどなぁ!」と膝を打った。

等身大の子だなと思った。

結末は……よかったのかは分からない。よかったのかもしれない。難しい。


何故僕は美人が好きかという答えが見つかったように思う。
この本の言葉を借りれば『買ってもらったばかりのリカちゃん人形のさらさらの髪を、はじめて指でなぞるときに似た、美しいものに触れられる純粋な喜び、心の震え』である。
美しいというのは、そもそも素晴らしいんだ。

 

表題作『かわいそうだね?』も拝読。主人公の女性は強く勇ましく素敵だった。ラストはとてもかっこよかった。寄生ぶりっ子女・アキヨさんもいいキャラしているなぁ。
居候女の物に侵食された彼氏の部屋の様子など、感情ありありと映し出す比喩表現や情景描写がとにかく美しかった。
とても好きな本。

 

 

 

 

◇短編集『毒笑小説』東野圭吾さん、集英社文庫)拝読中。

人前で読むべき本ではなかった。

『マニュアル警察』は文字通りマニュアル通りにしか喋れない警察の話妻を殺め、自首してきた殺人犯に「奥さんの死体を見つけたのはあなたですか」と質問したシーンは、会社内にも関わらず笑ってしまった。
ホームアローンじいさん』は家族の留守中にセクシービデオを観ようとするおじいさんvs強盗という珍バトル。おじいさんは侵入者に気づいていないのに、おじいさんの行動は強盗を追い詰めていく。電車内なのに笑ってしまった。
安定感のある笑いが詰まった本。さすがは大作家・東野圭吾さん。

 

そしてこちら、『殺意取扱証明書』が収録されているではないか! 世にも奇妙な物語』の、同タイトルのドラマは原作者が東野圭吾さんだったのか!! 知らずに買っていた。

 

 

 

 

◇短編集天下り酒場』(原宏一さん、祥伝社文庫)。
『ボランティア降臨』という、これまた世にも奇妙な物語』になった話が収録されている。こちらも『世にも奇妙〜』になった作品が収録されているとは知らずに買った。

なさそうでありそうな、「デリバリー歯磨き屋」なる仕事を描く『ブラッシング・エクスプレス』や、メディアに言われるがままに資格を取りまくるアイドル男の戸惑いと努力を描く『資格ファイター』がお気に入り。

 

『資格ファイター』に登場する他者に翻弄されやすい穏やかなアイドル主人公は、ドラクエ11の、マスク・ザ・ハンサムくんという僕の好きなキャラに通じるところがあったので、彼の姿をイメージして読んでいた。それもあってかなり楽しんで読んだ。
小説を読むときは、好きなキャラクターのビジュアルを拝借して脳内再生できるととても楽しい。めちゃくちゃ楽しい。オタクの読書術である。

 

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◇各作品の詳細情報リンク(基本、リンク先は出版社公式サイト)◇

 

*『新諸国奇談』→【『新諸国奇談』(阿刀田 高)|講談社BOOK倶楽部

 

*『東京奇譚集』→【村上春樹 『東京奇譚集』 | 新潮社

 

*『女が蝶に変わるとき』→【女が蝶に変わるとき | 株式会社 幻冬舎

 

*『呪怨 終わりの始まり』→【呪怨 終わりの始まり 大石 圭:文庫 | KADOKAWA

 

*『かわいそうだね?』→【作品について|綿矢りさ『かわいそうだね?』|文藝春秋|特設サイト

 

*『毒笑小説』→【web 集英社文庫

 

*『天下り酒場』→【天下り酒場 / 原 宏一【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

 

 


*『世にも奇妙な物語』→【世にも奇妙な物語 - フジテレビ