コボレ恥之介と 石の下でさざめく記事たち

元・マンガ家志望。小説・映画・漫画の感想や表現技法の勉強、自作品の批評など。僕がアウトプットするためのブログです。

【読書感想文集】不純愛にときめくアナタへ届け

無差別快楽殺人鬼の純愛。恋人と一緒にいるために、恋人を食べることにした男。略奪愛の記憶に生涯支えられた女……。

人は常に美しくはいられない。ヘドロがこびりついて取れなくなった自分にも、祝福は訪れるのだろうか。
苦痛のトンネルを抜けた先に、さらに広がる無限の暗い夜。そこをひっそりと照らす星……。
そんなイメージを持つ本を、1月はよく読んだ気がします。

そんなわけで、以下は拝読本の感想まとめ。

 

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◆『ユリゴコロ沼田まほかるさん、双葉文庫

 

僕は本を読んで泣くことはさほどないが、「私」さんの手記を読んでいたら、涙が出てきてしまった。「私」の手記は、僕・コボレ恥之介の手記だと思った。
「私」さんが真っ暗な井戸に大切な生き物を落とすのは、死後の孤独が怖いからだろうか。


『 俺は、自分の前に現れるどんなまともな女に対しても、あのできそこないの女に抱いたような愛情は抱けないだろう』

ここでまた泣いてしまった。

きっと僕も……そう言われたいんだろうなぁ。僕のようなできそこない、なりそこないに、欠陥を知った上で、特別な愛情を、僕だけへの何かを、……。

 

ラストでもまた、泣いてしまった。号泣してしまった。ここまで泣いた本は過去にあったか?
二人だけの場所へ行く。それは何だか、何だかとても、……綺麗なものだなと思った。
穏やかな日々が、この二人の行く先にあってほしい。祝福されるような人間ではないが、溢れんばかりの祝福を受けてほしい。

 

何だろうなぁ。「私」さんは快楽殺人鬼だけど、最後は穏やかな日差しの下で、花畑で、花かんむりをつけて笑いあっていてほしい。別にあれらの行動を許す訳でも同情している訳でもない。腐れ外道のクソ畜生だとシンプルに思う。ただ、僕のほしいものを、この人が代わりに、不当に受け取ってほしい。
「私」さんは、息をするように人をコロすというよりも、息をするために人をコロすというか、息をすることの一貫に「コロす」が入っているというか……。コロすように息をするというか……。食事睡眠排泄とまったく同列に殺人があるというか……。殺人より、吸血鬼が血を吸うのに感覚が近い気がする。

 

 

 

 

短編集『主婦病』(森美樹さん、新潮文庫

 

『まだ宵の口』が妙に刺さった。ヒロインが割った皿の破片が胸部に突き刺さって抜けないような、鋭い痛みを伴う刺さり方。執着を手放そうとする終わり方に安心できた。人の幸せってやつは、テンプレをなぞればいい訳ではない。簡単じゃない。
「普通の幸せ」とは違う道を歩くのには、とても大きな勇気がいる。僕やこれらのヒロインに必要なのは、たぶんそれだ。

 

 

 

短編集『ため息の時間』唯川恵さん、新潮文庫

 

『バス・ストップ』の妻の手口が鮮やか! 不倫夫に尽くす妻。一見無意味と思える行動。だがその意図に驚いた! 一年間たっぷり甘やかしてから離婚、手のかかる夫に仕立て上げてから次の妻(不倫相手だった女)に手渡すのだそう。策士やで!


『僕の愛しい人』は! 僕の! 大好き〜な! 展開!

最愛の女、千晶がシんだ後……。


『二ヶ月、かかった。千晶は完全に僕のものになった。というより、僕と千晶は一体になった。今はすでに、僕の身体の隅々にまで千晶が存在している。もう、僕たちは二度と離れない。一生、一緒にしよう』

 

食べた?!? 食べたんだな? 千晶さんをな?!
僕はね……大好きなんですよぉ、歪んだ愛の、ハ・ナ・シ……(満面の笑み)

 

 

 

 

アンソロジー『あの街で二人は』(新潮文庫)

 

『アンビバレンス』(著:村山由佳さん)が印象的。ペットのインコを大事にする女性の話でした。
男がインコの頭をふざけて口に含むシーンは衝撃! 知らない人にいきなり食われて怖かったよね、インコさん。ヒロインが彼を赦さない人でよかった。

 

 

 

 

◆アンソロジー『偏愛小説集 あなたを奪うの。』(河出文庫

 

『朧月夜のスーヴェニア』(著:窪美澄さん)のエッッロさ何なん?!?

 

ただ二人で道を歩く。距離を取って歩く。無言で歩く。それだけなのに!

何故こんなにも! 卑猥なんだ! おい!!

致してる場面を遥かに凌ぐ究極ド工ロ描写でした。
並んで歩くってすげーーーー意味のあることなのだなと改めて思った。このスケベが!(←?)

ちなみにスーヴェニアとは「自分のためのお土産」という意味の言葉のようだ。人に決められた許嫁でなく、自分で選んだ相手との時間。それが彼女の宝ということか。自分の意志で行動するのは大事なことよね。

 

『夏のうらはら』(著:千早茜さん)の恭一さんと絹子さんの関係性も好きだな。

「あんな出来のいい子が嫌いって口にする意味をちゃんと考えたの? あたしが嫌って言っても、あなた構わず来るじゃない。でも、あの子に嫌いって言われたらすごすご引き下がるんだ」 
気づいてないが、心の奥に相手を求める感情がある。素敵じゃないですか。愛でなく憎しみが命を救うとは。

 

『それからのこと』(著:彩瀬まるさん)も印象深い。
『大輔は、小説や詩を読むのが好きな男です。社会と対峙するのが本当は怖いくせに、理屈で身を守っている男でした』
 

このセリフ、僕のことすぎて心臓がズキィッ! ってなりました。はい……怖いから理屈で武装するんですよぅ……。仕方ないじゃないですかぁ……。

そういえば最近ハマっているシェイクスピア作品には、寝取られ男になることを恐れる男がびっっくりするほどいるのだが。この話の平丘さんみたく、寝取られようがよき振る舞いさえすれば、実は評価が上がるのだ。まあ時代が違うから比較するようなもんじゃないかもだけどね。

言うて平丘さんも最後騙されるが!

 


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◼︎各小説の詳細情報(リンク先は出版社公式サイト、もしくはamazon◼︎

 

◆『ユリゴコロ』→【株式会社双葉社|本の詳細 | ユリゴコロ|ISBN:978-4-575-23719-1


◆『主婦病』→【森美樹 『主婦病』 | 新潮社

 

◆『ため息の時間』→【唯川恵 『ため息の時間』 | 新潮社

 

◆『あの街で二人は』→【https://www.amazon.co.jp/dp/410133255X/ref=cm_sw_r_tw_awdo_c_x_7fjzEb4J6VYKF

 

◆『偏愛小説集 あなたを奪うの。』→【あなたを奪うの。 :彩瀬 まる,窪 美澄,千早 茜,花房 観音,宮木 あや子|河出書房新社