コボレ恥之介と 石の下でさざめく記事たち

元・マンガ家志望。小説・映画・漫画の感想や表現技法の勉強、自作品の批評など。僕がアウトプットするためのブログです。

『恋愛嫌い』(平安寿子さん、集英社文庫)感想

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何と言ったらいいか分からない一冊。


ただこの感想、「悪かった」と言っているわけではない。むしろ良作だったがゆえに感想がわからないのだと思う。あまりに考えることが多すぎて、思考が渋滞を起こしている。
私はこの本の感想を、何度も書いて、何度もボツにしている。私は書くことすべてが嘘に見える。その瞬間は真実であると思って書いているが、次の瞬間には真っ赤な嘘になってしまう。
「恋愛嫌い」。それは本当に最低な状態なのである。「恋愛に興味のない人」にはなれない。「恋愛を心から楽しめる人」でもない。曖昧で窮屈な状態。この苦しみから脱することは必須である。
たぶんこうやってウダウダと悩んでいることが悪いのだろう。行動をしなければならないのだ。
そう。私にとってもはや恋愛活動は、したいしたくないではないのだ。義務、責務、必須業務。しなければならないことを、するか怠るか。私に突きつけられたのはその二択だ。
ああ、嫌だ。

 


……死の恐怖。私はとても低劣で矮小な人非人だから、自分が恋愛するということを、そのような馬鹿馬鹿しいものと結びつけてしまうのだ。だが人間、生きる上で死地に赴くことを拒むことはできないのだ。シぬことを受け入れないと、生きることはできないのだ。名誉という観点で考えるのなら、みっともなく長生きするよりも、挑戦してシぬほうが正しいのだ。

ああ、やばい。私は今スマホを叩く指が震えている。寒いわけではない。むしろ身体は火照っているくらいだ。だが親指が確実にぶるぶると揺れている。目に見えて震えている。
この文章は、遺書なのではあるまいか?
戦地に赴く者は、いつシんでもいいように、先に遺書を書くことがあるという。死の世界に足を踏み入れる決意のために書いているこれは、遺書なのではなかろうか?……。


そうまでして恋愛はしなければならないものなのだろうか。
違うのではなかろうか。

「ねばならない」思考は、はっきり言って、健康的ではない。推奨できることではない。

いや、何にせよ、この曖昧な状態は悪である。解消せねばなるまい。どうやって?
………………どうやって?

その答えを求めて私はこの本を買った。だが結局、見つからなかった。
私の平穏はどこにあるのだ? 人生に平穏などありえないのか?

 


いや、違う、違うんだ。
この本は、このような考えを起こさせるために書かれたものではない。
恋愛をしなくても幸せになれる。
そう言っていなかったか?

恋愛は嫌いじゃない。主体者が私でなければ、だが。街中でカップルを見るのが大好きだ。ペアルックをしたり手を繋いだりハグしたりしている人を見ると妙にウキウキする。何度も思い出して何度でもハッピーな気分になる。
ブコメディも大好きだ。でも不倫ものや恋愛で破滅する話も好物である。
作品を見ているときに、気になるキャラがいるとすぐ脳内でカップリングを組んでしまう。男女でも男男でも女女でも、年齢差も身分差も、作品内での関係性も関係なく、節操なしに脳内カップルにしてしまう。最近は二次創作でそのような絵をTwitterにあげることも覚えた。
ホットペッパーは恋愛脳科学コーナーが一番楽しみだ。

このままではいけないのだろうか?

 


何だろう、この感想も違う気がする。
まるで「どうしても恋愛したくない人」のようである。そんなふうに純然たる思いを胸に生きる人間だったのか? 違う。もっと私は曖昧で情けない人間だ。恋愛がしたくないというのも嘘。恋愛がしたいというのも嘘。嘘、嘘、嘘。ああ、腹が立つ。はっきりしないことはイライラする。お前は一体何なのだ。命をかけて証明しろ。違う、命は無駄にしてはならない。

畜生! どうすればいいのだ。
ああ、私はなんと醜いのだ。

 

 


この曖昧で定まらない状態も私だ、ということなのだろうか。私はこのままでいいのだろうか。
恋愛嫌いは、恋愛嫌いのままでいる権利があるのだろうか?


私は虫が嫌いだ。高所も嫌いだ。オカルトホラー映像も嫌いだ。でもそれらを即座に解消しなければならないとは思わない。だが恋愛嫌いは1秒でも早く取り除かねばならない気がする。何故だろうか。
誰がそんなことを言ったのだろうか。親だろうか。友人だろうか。新聞だろうか。テレビだろうか。


恋愛嫌いがアイデンティティーでも、いいのだろうか。
恋愛嫌いな私でも、いいのだろうか。

 

 


さて。自分の話ばかりしてしまった。いい加減に本自体の感想を言うとしよう。疲れたので箇条書き。

 

・『恋が苦手で……』、恋愛が得意な人はいない、だから恋愛運占いやモテメイク特集が流行るとの見解。みんな恋愛が得意なんだと思ってた。目から鱗
・『相利共生、希望します』、美人にアプローチするのはよほどの自信家、と述べる箇所が印象的。何故なら私は美人という概念が好きだからです。
・アルコールに弱いのに、推しお姉さんについていく内藤くん可愛いなぁ~。個人的には鈴枝さんと内藤くんがくっついたらいいなぁとこっそり思いました(カップリング厨)。
・解説。メインキャラクターの3人は『無理せず気楽に生きている』らしい。話の全体を読んだ印象は、私は彼女たちが「ものすごく無理をして人間のフリをしている」ように見えてしまった。本当はどっちなのだろう。この話は「気楽に生きている瞬間」を描いているのか、「気楽な瞬間と気楽な瞬間の間に存在する、ものすごく無理をする一瞬」を描いているのか……?
・解説。その先を読むと『独身生活を謳歌する彼女たちは/何の屈託も焦りもない』とある。屈託や焦りで恋愛行動をしているのかと思って読んでしまっていたが……。私の認識が歪んでいるのだろうか?
・要するに「私の話」ではなかったのだ。というか、私はこの話に出てくる例に当てはまる人間でなかった。少なくともこれが分かった。とても大きな収穫である。

 

 


そもそも。本に答えが書いてあると思うことは間違いだ。本はあくまで考えるきっかけだ。本の内容を受け、自分の頭であれこれ考えることが重要なのだ。
つまりこの本は、とても素晴らしい読書体験をもたらしてくれたのだ。良書であった。
数年後にまた読み返したい。そうしたら、また違う感想を抱きそうだ。

 


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◆『恋愛嫌い』詳細情報(公式サイト)→【https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-746751-2

 

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