コボレ恥之介と 石の下でさざめく記事たち

元・マンガ家志望。小説・映画・漫画の感想や表現技法の勉強、自作品の批評など。僕がアウトプットするためのブログです。

指揮者=マンガ家or俳優? オーケストラ『べとオケ!』感想

指揮者はリズムを刻むための機材ではない。その正体は……

 

 

 

 

 

 

Beseeltes Ensemble Tokyo、略称「べとオケ!」を拝聴して参りました。

本記事はその感想、指揮者というお仕事へのフォーカス編です。


※なお、僕には音楽の知識も文章力もないので、その点はご納得の上でお読みいただけると幸いです。

 

 

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僕は指揮者と言うと、指揮棒をただ規則正しく動かすイメージしか持てていなかった。
例えば中学校の合唱コンクールでの指揮者は、メトロノームになり切ることが理想とされているように僕は思える。

しかし本物のオーケストラを観にいって、そのイメージがテンプレートではなくなった。
燕尾服に身を包んだ上品な出で立ちの男性指揮者は、リズムを刻む機械などでなく、狭い指揮台で華麗に踊り狂うダンサーだった

 

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刀で相対した武士を肩から脇腹にかけて大きく斬り下げるようにして躊躇いなく指揮棒を振るう

かと思えば、憎い男の腹筋の隙間に果物ナイフを複数回叩きこんで息の根を止めようとするかのように、中段で構えた指揮棒を鋭く真っ直ぐ、突き刺すようにして素早く幾度も前後に動かす
その一方で、幼い子をなだめるために頬を撫でる母親の手の平のように、優しく穏やかに指揮棒を揺らす。ふんわりとしたボリュームの綿あめを作るように、緩やかに大きな円を描く

 

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雄弁なのは指揮棒だけではない。指揮者そのものも指揮棒となって音楽を纏め上げていた
その場で飛び上がり、全体重を以て指揮台をドンと太鼓のように打ち鳴らす
自身の左側に並ぶ演奏者のすべてを、突き出した両の手から放ったビーム砲で消し飛ばそうとする。これは「ドラゴンボールかめはめ波のようなポーズした」という表現のほうが伝わりやすいかもしれない。


ぎゅっと握った拳を下に向けたままで肩をいからせ、腕全体で半円を描くように力強く腕を膨らませる「q」と「p」という二つのアルファベットを、直線側を背中と見立て、背中あわせにするようにして0距離で横並びにさせたような形、と言うと伝わるだろうか?

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(こういうこと)

 

腕をその状態にしたまま、胸を張ってがに股になる。そして拳にした腕を上下に振り下ろしながら、地団駄を踏む……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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卓越したパントマイマーのような。演技過剰な新人俳優のような。キャラクターの怒りの表情を描くときに、自分自身も肩に力を入れて顔を歪ませてしまうベテランマンガ家のような。
その指揮者は、さまざまな印象を僕の中に落としていった。



同じ音楽でも、指揮者によって味わいはまったく異なるという話を聞く。
僕はまだオーケストラというものにほとんど足を運んだことがないので、違いを比べることはできない。
それでもその説に、僕は自信を持って首肯するとができ


指揮者はリズムを刻むための機材ではない。


指揮者とは音楽そのものなのだ。

 

今奏でられている音楽を人の形にしたものなのだ。

 

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そういえば今回拝見した指揮者の方は音楽の開始前に、何故か二度ステージに挨拶に来ておられた
オーケストラをよく知る人は「それには○○○○という意味があるんだよ」と説明してくださるかもしれない。きっとそれが正解なのだろう。
だが僕はあいにく素人坊やに過ぎないので、ここでは僕が受けた印象の話をさせていただこう。


最初に現れた方は、指揮者そのもの。一度舞台袖に隠れに行き、すぐにステージに戻って来たのは「音楽」そのものだったのではなかろうか。一度袖に身を隠したのは、霊媒師が霊魂を憑依させるかのように、空間に漂う「音楽」という概念を指揮者の身体に乗り移らせたのだ。

つまるところ、最初に挨拶に来られたのが霊媒(=指揮者)。二度目に来られたのが憑依霊(=音楽)別の存在になって、別の存在として、改めて挨拶をしてくださったのではないかと僕は思った。

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指揮者を介して……否、演奏者の方々をも含めたオーケストラ団のすべてを介して、僕は音楽そのものの歌を聴いたのだ。

 

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大変幻想的な体験だった。また拝聴しに行きたい

 

 

 

*『べとオケ!』についての詳細(演奏団の公式サイト)→【Beseeltes Ensemble Tokyo - べとオケ!

 

*『べとオケ!』について語った本ブログ別記事(拝聴した曲『運命』に関する妄想話)→【『運命』という曲はない? オーケストラ 『べとオケ!』感想 - コボレ恥之介と 石の下でさざめく記事たち